【新設】中小企業新事業進出補助金
- Hirotaka Nanjo
- 1月25日
- 読了時間: 12分

当補助金は、既存事業と異なる事業への前向きな挑戦であって、「新市場・高付加価値事業」への進出を後押しすることで、中小企業等が企業規模の拡大・付加価値向上を通じた生産性向上を図り、「賃上げ」につなげていくことを目的としています。
1.事業概要
企業の成長・拡大を通した生産性向上や賃上げを促すために、中小企業等が行う、既存事業とは異なる、新市場・高付加価値事業への進出にかかる設備投資等を支援します。
※中小企業・個人事業主が申請できる制度です。
2.補助率と補助上限金額等
必要な投資規模、補助率・補助金額は次のとおりです。
補助額
従業員数20人以下 2,500万円(3,000万円)
従業員数21~50人 4,000万円(5,000万円)
従業員数51~100人 5,500万円(7,000万円)
従業員数101人以上 7,000万円(9,000万円)
補助率
1/2(賃上げ要件や小規模事業者は2/3)
採択件数
5000万円が平均補助額の場合、6000社
※採択数が6千社程度の場合、1回目採択率は35~40%と推定します
3.要件
①「新製品(サービス)」×「新規顧客層」
②付加価値額年平均+4%以上増
③給与総額年平均+2.5%以上増 or 1人あたり給与支給総額の年平均成長率が、事業実施都道府県における最低賃金の直近5年間の年平均成長率以上
④最低賃金+30円以上
※基本要件②、③が未達の場合、未達成率に応じて補助金返還。ただし、付加価値が増加してないかつ企業全体として営業利益が赤字の場合や、天災などは返還免除
①「新製品(サービス)」×「新規顧客層」はアンゾフの成長マトリックスで言う、「多角化戦略」に近しいようです。新しいもの(製品・サービス)を作って、イノベ―ジョンを起こして欲しいと言う意図と思われます。このため、世の中にある程度普及している事業の採択率は低い可能性があります。
4.採択されやすい事例
直近の補助金の採択傾向から以下のような取り組みが採択されやすいのではと推定しています。
①. 製造業の技術転用例
精密板金加工会社が医療用ロボット部品を製造
得意とする微細な金属加工技術を活かし、手術支援ロボットなどハイテク医療機器の金属部品製造へ参入。
高い精度やクリーンな環境が求められる医療現場への対応が鍵。
プラスチック成形メーカーがドローン筐体や部品に進出
軽量かつ強度が必要なドローン機体の成形を自社のプラスチック技術で対応。
趣味用途から産業用まで幅広いドローン市場にアプローチ。
鋳造メーカーが電気自動車用バッテリーケースの製造に着手
既存のアルミ鋳造技術を活かし、バッテリー保護や放熱特性が必要とされるEV部品の生産ラインを構築。
脱炭素や電動化の潮流に乗って大きく事業を伸ばす。
金属プレス加工業がフライパンや鍋などのキッチンウェア市場に参入
深絞りなどの金属加工技術を家庭用食器に応用。
高級キッチン用品ブランドとして国内外で販売。
②. 食品・飲食業の事業拡大例
地元の醤油醸造所がクラフトビール醸造所を立ち上げ
発酵技術や衛生管理のノウハウを活かし、ビール市場で新ブランドを展開。
地元産の原料にこだわり、観光客向け体験施設も併設。
和菓子製造業が冷凍和菓子(スイーツ)を開発して海外市場へ
伝統的な製法と冷凍技術を組み合わせ、長期保存が可能な高付加価値スイーツを開発。
海外への輸出ルートを開拓。
海産物の加工会社がペットフード市場に参入
乾燥やフレーク加工の技術を応用し、高品質なペット用おやつを製造。
人間用食品レベルの安全基準で差別化。
③. 建設業・インフラ関連の事業転換例
建設資材メーカーが農業資材(ハウス骨組みや灌漑装置)分野に進出
高い耐久性や防水性が求められる建材のノウハウを、農業分野の資材製造に転用。
農家向けの省力化ソリューションとして提案。
鉄骨加工・組立工場がモバイルハウス・コンテナハウスの製造へ
建築用鉄骨の製造技術を活かし、簡易住宅や事務所用ユニットハウスを開発。
災害時の仮設住宅需要やアウトドアブームを捉える。
④. サービス業の新規展開例
イベント企画会社がオンラインプラットフォームを活用したAR体験事業を開始
リアルイベントの運営ノウハウとIT技術を組み合わせ、オンライン展示会や仮想空間でのイベントを企画。
コロナ禍・アフターコロナの新しい集客手段として注目。
物流会社がクラウド型在庫管理システムを開発・販売
倉庫管理の実務ノウハウをソフトウェア化し、中小企業向けにサブスク型で提供。
自社事業のDX推進がそのまま新ビジネスとして成長。
⑤. 小売・流通業の垂直統合例
農産物卸売会社がフレッシュジュース工場を新設
生産農家とのネットワークを活かし、傷がついた果物や規格外品をジュースへ加工・販売。
フードロス削減と付加価値創造を両立。
文具専門店がオリジナル文房具ブランドの製造工場を設立
顧客ニーズを熟知した小売店ならではのアイデアを製造に反映。
自社ブランドとしてネット販売や海外展開も視野に。
⑥. 伝統産業の新業態・新市場開拓例
和紙メーカーがインテリア・照明製品に転用
和紙の美しさと高い透過性を活かし、デザイナーズ照明やアートパネルなどを製造。
世界的な和モダンブームを取り込み、輸出にも挑戦。
焼き物(陶磁器)工房がテーブルウェアから建築材・タイルへ拡大
長年培った釉薬や焼成技術を、大型の建築用タイルや内装材に応用。
ホテルや商業施設向けに高級タイルを供給。
⑦. IT・テクノロジー関連の応用例
SNS運用代行会社が独自AIチャットボットの開発・提供を開始
書き込み分析や対応ノウハウをAIに学習させ、カスタマーサポートを自動化するチャットボットを販売。
自社の運用データがサービスの品質向上に直結。
コールセンターが音声認識・感情解析ソフトウェアを開発
蓄積された通話対応のノウハウをもとに、オペレーターサポート用のAIツールを内製化。
他社のコールセンターへもライセンス供与するビジネスモデルを展開。
⑧. その他ユニークな事例
航空機整備会社が風力発電設備のメンテナンス事業へ
高所作業や精密検査のノウハウを、風力タービンの点検・修理に応用。
再生可能エネルギーの普及を支える新サービスとして需要が拡大。
水族館が養殖用飼料の開発・販売を開始
魚の飼育技術や栄養管理の知見を民間養殖事業者へ提供。
淡水魚や海水魚の飼料を独自配合し、差別化を図る。
スポーツジムが健康食品・プロテインを自社製造
トレーニング指導のノウハウを活かし、体作りに適したプロテインやサプリを開発・販売。
ジム利用者への直販とEC展開で収益を拡大。
5.補助対象経費
補助対象経費は、成長拡大のための建物費(拠点新設、増築等)、機械装置費(器具・備品含む)、ソフトウェア費、外注費、専門家経費の5項目です。
主に使ってよい経費は、建物費(拠点新設、増築等)、機械装置費(器具・備品含む)、ソフトウェア費の3経費です。詳細は以下の通りです。
①. 建物費
専ら補助事業のために使用される事務所、生産施設、加工施設、販売施設、検査施設、共同作業場、倉庫その他事業計画の実施に不可欠と認められる建物の建設、増築、改修、中古建物の取得に要する経費(単価100万円(税抜き)以上のものに限る)
②. 機械装置費
① 専ら補助事業のために使用される機械装置、工具・器具(測定工具・検査工具等)の購入、製作、借用に要する経費(単価100万円(税抜き)以上のものに限る)
② ①と一体で行う、改良・修繕、据付け又は運搬に要する経費
③. ソフトウェア費
① 専ら補助事業のために使用される専用ソフトウェア・情報システム等の購入・構築、借用、クラウドサービス利用に要する経費(単価100万円(税抜き)以上のものに限る)
② ①と一体で行う、改良・修繕に要する経費
6.想定スケジュール
1回公募:2025年4月:確定
2回公募:2025年6月~7月末ごろ
3回公募:2025年9月~10月末ごろ
※1回あたり1500社程度の採択数であり、合計4回程度の公募数と推定しています。
7.採択率は?
1回公募の予測採択率は、35%~45%程度と推定しています。
事業再構築補助金の初回採択率は60%程度、直近採択率は30%弱です。補助金慣れしている事業者が増加しており、今回は、4月開始と、準備期間も長いため。
8.今からできる事は?
これから制度詳細が出てきますので、最新情報に併せて対応していくことになりますが、
・現状分析(現状の課題を定量的に分析しておく)
・事業戦略(現状分析を踏まえ、どのような優位性・先進性を持って事業展開を行うか)の整理
・投資内容具体化(費目と金額、数量を整理)
・ベンダーとスケジュール調整・概算見積確認
※財務状況は良好であれば点数もよくなると思われますので、これから決算を迎える企業さんはできるだけよい決算を出しておくことお勧めします。
9.採択率を上げる方法
1-1. 採択事例に近い取り組みにする
取り組みの方向性を採択事例に近づける
先ほどの事例①~⑧は、再構築補助金の最新回の採択結果です。当制度も似たような傾向となると思われますので、近しい取り組みにすることをおすすめします。
1-2. ローカルベンチマーク(ロカベン)の財務スコア「A」を目指す
財務状況の健全性を示す
ローカルベンチマークで高評価(A)を獲得すると、事業遂行能力の高さをアピールできる。
早めの財務改善・資金調達計画
助事業で必要な自己資金や資金繰りをしっかり準備し、金融機関の評価を得る。
1-3. 賃上げ成長をできるだけ高い率・多くの人に適用する
賃上げの具体的計画提示
賃上げ対象人数・割合を大きくするほど、審査上の評価が高まる。
業績アップが給与アップにつながる仕組み
事業の持続性と成長力をアピールすることで、高評価を得やすい。
1-4. 最先端の取り組みを加える
DX導入や新技術開発
AI、IoT、5Gなどを取り入れて競合他社と差別化を図る。
サプライチェーン強化
コロナ禍や自然災害、世界情勢の影響に備えたレジリエンス構築で評価アップ。
1-5. その他のポイント
可能なら第1回目の公募で申請
採択率が高いタイミングを狙うのも一つの手段。
事業計画書の完成度を高める
論理的な構成やデータ裏付け、ビジネスモデルの説得力が鍵。
関連企業や大学との連携
実現可能性や波及効果の面で大きなプラス評価を得やすい。
10.審査基準
当制度の詳細の審査基準は出ていませんが、再構築補助金の後継ですので、以下のような審査基準になると推測します。
①新規事業の有望度
新規事業の市場性・成長性
補助事業で取り組むビジネスが、十分な規模や成長が見込める市場か。
継続的に売上・利益を確保できるだけのポテンシャルがあるか。
自社にとって無理なく参入できるか
免許・許認可の取得や取引先の確保が可能か。
法的ハードルやサプライチェーン上の障壁はクリアできるか。
競合と比べた差別化・優位性
顧客が何を重要視するかを把握し、競合他社より魅力的な強みを示せるか。
真似されにくい独自の優位性を持てるか(単なる「営業時間の長さ」等だけでないこと)。
②事業の実現可能性
実施計画の明確さ
中長期的視点で課題を検証し、具体的なスケジュール・解決策が明確になっているか。
財務状況・資金調達力
直近の財務状況が安定しており、金融機関などから資金調達が見込めるか。
実行体制の確保
事業に必要な人材・事務処理能力を自社できちんと用意できているか。
外部任せになりすぎていないか、多角化しすぎてリソースが不足していないか。
③公的補助の必要性
経済波及効果・社会的インフラとしての意義
川上・川下への波及効果が大きい事業か、新たな雇用創出につながるか。
国として支援する意義が高い分野・テーマか。
費用対効果・事業の継続可能性
投入する補助金に対して、どの程度の付加価値や生産性向上が見込めるか。
事業の将来性や安定性が高いか。
イノベーションへの貢献度
先端的なデジタル技術や新しいビジネスモデルで地域やサプライチェーンを変革できるか。
コロナ禍などの危機に強い事業モデルとなるか。
単独実施の難易度
補助がないと成立しにくい事業か。
自社のみで容易に進められる計画ではないか(「本当に補助金が必要か」を問われます)。
11.収益納付は不要
「収益納付」とは、補助金を利用した結果、利益(収益)が発生した場合に、その一部を国や自治体に返還する義務を指します。昨年までは多くの補助金に収益納付義務がありましたが、今年からは全体的に廃止となるようです。
12.補助金の流れは?
公募要領・募集情報の確認
対象となる事業や企業規模、補助率、申請期間などを確認します。
補助金ごとの要件を満たしているか事前にチェックしましょう。
事業計画の策定・要件との照合
補助金の趣旨・要件に適合する形で自社の事業計画を策定します。
事業の目的・内容・実施方法・期待される成果などを整理し、補助対象経費を確認します。
申請書類の準備
公募要領で指定される様式(申請書、事業計画書、経営計画、財務諸表など)を収集し、作成します。
課題解決策や数値目標が明確になるように記載し、採択されるためのポイントを押さえましょう。
申請・提出
所定の方法(電子申請・郵送・持参など)で申請を行います。
締切日や必要添付書類などの不備がないか、余裕をもって確認・提出しましょう。
審査・結果通知
提出された申請書類をもとに書面審査やヒアリング(面接審査)が行われます。
採択結果の通知(不採択の場合も通知あり)が届きます。
交付申請・交付決定
採択された後、改めて「交付申請書」を提出し、正式に交付決定を受けます。
ここで事業の実施期間や補助額上限が正式に設定されます。
事業実施・中間報告等(必要に応じて)
交付決定後、補助事業を実際に進めます。
事業の進捗に応じて、中間報告や経費支出状況の報告が必要となる場合があります。
実績報告
事業終了後、実施内容や成果、支出した費用などをまとめた実績報告書を提出します。
領収書・契約書・支出証拠書類なども必要に応じて提出します。
検査・審査(監査)
実績報告を受け、所管機関が審査・監査を行います。
必要に応じて、追加書類や現地調査を求められる場合もあります。
確定通知・補助金の受領
13.補助金の注意点
交付決定から発注が可能となる事(一回目の採択の場合、8月頃に交付決定され発注可能となると推定)
採択されてから交付決定までに4カ月かかる事もあるため、スケジュールにゆとりが必要である事
工期は最大で12~14か月程度であるため、建物改修の場合は、しっかりとバッファを持っておく事
「諸経費」「管理費」などの補助対象外経費は除外される可能性が高いため、補助額に含めない事
補助事業終了後も、一定期間、毎年事業化等の状況について報告する事
他事業での利用や、担保提供、処分や売却を行う場合、残存価格の補助額に相当する額(売却額)を返還する必要がある事
申請時補助金額算定上は経費は税抜きで換算され、補助金入金時は営業外収益等に入る事
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